2010年11月18日木曜日

S 歯科医院

函館の閑静な住宅街柏木町にあるS歯科医院。虫歯の治療のため、5年ぶりに訪ねた。2年くらい前に建物を改装したそうでとてもキレイになっていた。改装前も明るくて清潔な印象だったS歯科医院。昭和の匂いがする上品な佇まいが大好きだった。ロビーで順番を待っていると、75歳のS院長先生が
「あ、谷杉さん、お久しぶりっ!これね、先月ヨーロッパで撮ってきた写真なんだけど、どう?良く撮れてますか?」と言って8x10にプリントされた作品を20枚ほど見せてくれた。
「先生、なかなか良く撮れてますねぇ、傑作ばかりですよ。とくにこの写真なんかはシャッターチャンスが絶妙ですなぁ。」などと、他の患者さんそっちのけで写真談義が始まった。S先生はとても熱心な写真愛好家で、お会いするといつもこんな感じなのだ(^^;;
「谷杉さん、こんな場合はどう撮ればいいの?へぇー、なるほどねっ!今度うちの医院で写真の講義をして下さいよ、歯科医ってけっこうカメラを使う仕事なのよ、ねっ、ねっ!やってねっ!」
「は、はいぃ、、、。と、とりあえず、今日は私の歯の方を、、、。」
「は?あ、そうだったね。で、今度はどの歯治すんだっけ?」
とにかく終始こんな感じの愉快な先生なのである(^^;;
ところが診察室に入るとキャラがクルッと変わるんだねぇ、S先生。まさに「スィッチが入る」ってあのことだ。ドリルを手にしてる時以外、びっしり一人でブツブツ喋りながらひたすら施術するのだ。
例えば「あ、こりゃ○○を先にした方がいいな、となると△△△が必要だ。まてよ、そうなると××しづらいから□□□もやっといた方がいいわけだ。。。ほらね、やっぱりね、冴えてるねぇ、さすがだねぇ!」私に話かけてるわけでもアシスタントに指示してるわけでもなく、限りなくご自身との対話なのである。
この調子で1時間びっしり治療して頂き、見事に私の歯は再生されたのである。麻酔も使わなかったのに、全く痛まなかった。一発完治したそうである。私の素人判断によると、今回の治療はかなり難度が高いと思われ、訪院前には激痛と数週間に渡る通院を余儀なくされることを覚悟していたのだった。まさに奇跡の歯科医だな、S先生は。白衣のS先生の後ろ姿が、術後の「ブラックジャック」のように神々しかった。
「私は80まで歯医者続けるよ。医院も新しくしたことだしね。だから谷杉さん、写真の講義お願いねっ!」
新しくなったレントゲン写真室に私を案内し、S先生は次の患者が待つ診察室へ入って行った。
私は物心ついた頃からずっとS先生に歯の治療をして頂いている。院長室の書庫にはS歯科医院開院当時から今に至るまでの膨大な枚数のカルテとレントゲン写真が保管されている。もちろん私のものも30年以上前から何十枚も保管して下さっているそうだ。刑事ドラマじゃないが、仮に私がバラバラになっても歯が一本でも現場に残っていれば、S歯科医院で検証してもらえばその歯が確実に私のものであると分かるわけである。すごいっ!(^^;;
話がいささかズレたけど、私はS先生が大好きだ。心からリスペクトしている。たぶんS先生ほど歯科医院という仕事場を愛してる人はいないんじゃないかな。診察中の圧倒的な「この道一筋」感がねぇ、燻し銀の職人気質感じるんです。確かにちょっぴり変わったところもあるけれど(失礼っ)、私にはエレガントにすら思えるんです、そんなS先生のスタイルが。
たぶん私の歯に関してはS先生が世界中で一番熟知して下さっていますし、S先生にしか治療をお任せできません。この街にはそんな患者さんが大勢いるはずです。いつか私もお客さんにそう言って頂けるような写真館主になりたいです。
S先生、いつもありがとうございます。80までなんて仰らず、生涯現役でお願いします。私も私なりにがんばりますんで、今度ご厄介になります時には(例の奥歯がそろそろやばい感じです)「保険の効かない金メダル」(金歯)を授けて下さいねっ(^^)


閃光中年